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cloverbooks' journal

オンライン書店奮戦記

以下の原稿は『本の雑誌』の2003年7月号に掲載された原稿です。

クローバーブックスのオンライン書店部門で奮闘していた頃に書いたものです。

(注:現在、クローバーブックスの書店部門はお休みです。編集・執筆部門のみ営業中です)

当時はまさか、こんなに新刊も古書も、電化製品も日用品も何もかも、小売がアマゾン一色になるとは思ってませんでした……。

 

【初出:『本の雑誌』2003年7月号】

【再録:『本屋の雑誌 別冊 本の雑誌17』 2014年5月30日発行、本の雑誌社

 

 

オンライン書店奮戦記

2000年にオンライン書店「クローバーブックス」をオープンした。

http://www.cloverbooks.com/ 

きっかけは1冊の本。高橋恭司さんの写真集『THE MAD BROOM OF LIFE』の発売後まもなく版元である光琳社出版が倒産、あまり流通しないまま倉庫に眠っていることを高橋さんから聞き、「それはアカン。何か私にできることはないか」と、とりあえず在庫30冊を購入。全財産をはたいて30冊というのがなんとも情けないが、ともかくそれを販売するためのホームページをつくった。

The mad broom of life

The mad broom of life

 

 

その当時、世のなかにオンライン書店というものが登場しはじめ、そのまねごとをしてみむと思った。同時に自分のなかで「インディーズ出版をしたい」という野望というか妄想がだんだん大きくなってきていて、出版物を売るための場所づくり、という気持ちもあった。ちょうどその頃、北尾トロさんが雑誌「ダ・ヴィンチ」でオンライン古書店を開業する過程をレポートされていて、大いに参考にさせていただいた。

新世紀書店--自分でつくる本屋のカタチ

新世紀書店--自分でつくる本屋のカタチ

 

 (↑この本のなかでも、北尾トロさんにインタビューしていただいて、本屋さんについてお話してます)

 

そうしてひっそりとオープンしたものの、まさか注文があるとは思わなかった。「1年に1冊売れたら30年で完売。あせらず、まあせいぜい長生きしよう」と思っていた。ところが結果は2年で『THE MAD BROOM OF LIFE』は売り切れた。

宣伝もしていないのに、なぜ注文があるのか不思議だったが、理由は簡単で、検索サイトという便利なものがあるからだった。本を探している人は著者名やタイトルで検索して飛んでくるので、別に宣伝しなくても欲しい人はちゃんと見つけてくれる。

それで調子に乗って自分が編集した本や気に入った新刊、友人知人から譲り受けた古本などを少しずつ仕入れては細々と販売するようになった。これがまた不思議と注文してくれる人がいるのでビックリする。売っといてこんなこと言うのもなんだが。しかも「ずっと探していた本がみつかりました。ありがとう」とお礼を言ってもらえたり、「面白かった」とか「これからもがんばれ」といった感想や励ましのメールまでいただける。本屋さんがこんなに嬉しい仕事だったとは知らなかった。これまでおもに雑誌の編集の仕事をしてきたが、人様から感謝されることなんてなかったし、また読者から直接に感想を聞けることもなかったので、これには感激した。

たまに悪意のこもった嫌がらせのメールも来るが、そういうメールにはこちらも激怒メールを返信し、気色悪い返事が来たらさらに罵倒メールを送りつけ、そのやりとりを日記に公開して楽しませてもらっているので、これはこれでそう悪くない。

面白いメールといえば、滝本誠氏の『きれいな猟奇』(平凡社)という本を編集して以来、「ボクの本をつくってください」というメールや手紙がときどき来る。作品が同封されていることもある。出版社に番号を聞いて電話をかけてくる熱い人もおり、ある若者などは「小説を読んでほしい」と電話してきた。「読むだけなら読みますから、どうぞ送ってください」と言うと、「直接会って渡したい」と言い、さらに「今、ボクに会っておかないと、後でキミが後悔するよ」と自信満々におっしゃった。その人は現在は役者などをしており、初めての小説を執筆中とのこと。丁寧にお断りして電話を切ったが、久しぶりに「椎名桜子 小説家(処女作執筆中)」を思い出した。そもそも私に売りこんだって、華々しいデビューなんてあり得ないのだが。

きれいな猟奇―映画のアウトサイド

きれいな猟奇―映画のアウトサイド

 

 

それはさておき、個人のオンライン書店は古本屋がほとんど。新刊本は薄利ゆえに、ものすごく多売しないことには経営が成り立たないから、資本力のない個人では新刊本のオンライン書店はムリ。リン・ティルマンの『ブックストア』(晶文社)を読むと、こんなに有名な書店でもつねに赤字で、実家が裕福な女性経営者がずっと私財で補っていたことが書かれている。ましてや貧乏人をや。それでもなるべく新刊本を扱いたいので、うちも当然ながら赤字。「儲けなくては」と思うと逆にストレス大なので、「これは趣味だから赤字はオッケー。大赤字は避けよう」と自分に言い聞かしている。

ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店

ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店

 

 

こんなふうに新刊中心のクローバーフックスだが、古本も少しは扱いたい。最近は出版社もなかなか本を増刷せず新刊本がアッという間に「出版社で在庫切れ」=古本になるので、新刊本も古本も一緒に扱ってこそやっと本屋という感じ。

というわけで開業にあたり古物商(書籍商)の許可をとった。警察に何度も足を運ぶのは面倒くさかったが、まじめな一般市民が警察署のなかに入れる機会というのもあまりないことであり、なかなか貴重な体験だった。行ってみてわかったのだが、古物商の許可手続きは、銃刀所持、風俗営業の許可と同じく防犯課(現在は生活安全課)が担当で、防犯上の理由から免許制なのであり、要するに古物商は知らないうちに盗品売買に関与する恐れがあるから警察が管理するということだった。

なので、古物商の申請に防犯課に行くと、そこには銃砲刀剣を所持したい方々や風俗業を営みたい方々も来ている。で、区役所のように淡々とした事務手続きかと思ったらそうではなく、防犯課の刑事さんたちが忙しい合間を縫って対応してくれるのだった。あるときは補導したのか制服姿の女子たちに囲まれて刑事さんがデレデレッとなりキャバクラ状態のこともあった。また、「今日は人が少ないな」と思っていると、留守番の人が誰かに電話で「今、みんなガサ入れなんすよ~」と言っていて、「ガサ入れって本当に言ってる」と思っていると、押収したダンボール箱をもってドヤドヤと刑事さんたちが帰ってくるドラマのような場面を見ることができた。まるで歌舞伎町、『新宿鮫』の世界。実際にはここは亀有警察署でありムードは『こち亀』に近いのだが。だいたい刑事さんたちはみんなパンチパーマでガタイがよくて人相が悪く、その筋の方々と外見上は判別がつかない。警察官の不祥事がしばしばニュースになるが、警察署内で実感したのは、警察官は犯罪者と日々接し、犯罪の至近距離にいる人々であり、逮捕する側とされる側が、ふとしたはずみで入れ替わり得るデンジャラスゾーンの苛酷なお仕事なのである。

そんなことを考えさせられるほど何度も警察に通ってやっと免許が交付される日が来た。免許証をもらって帰ろうとしたら、防犯協力会に加入したほうがいい、と刑事さんに言われた。入会金と年会費が高かったので「検討します」と帰ろうとしたら、「強制じゃないよ。でも、みんなに入ってもらってるんだよね」と口調は優しいが、怖い顔で入会するように繰り返し言われ、結局「入ります」と言うまで帰してもらえなかった。こうして人はやってない犯行も自供してしまうのだということがよくわかった。

ちょっと話はシリアスな問題にそれたが、そんなわけで、私はオンライン書店を楽しく営んでいる。

 

本屋の雑誌 (別冊本の雑誌17)

本屋の雑誌 (別冊本の雑誌17)

 

 

 *この原稿は、↑この本に再録されています。